山浦製作では高クロム鋳鉄など硬度の高い材料を多く加工しています

高クロム鋳鉄の切削加工

高クロム鋳鉄とは

高クロム鋳鉄(こうクロムちゅうてつ、High Chromium Cast Iron)は、主に耐摩耗性や耐食性に優れた特殊鋳鉄です。クロムを多く含むため、その特性が活かされる用途で広く使用されています。

1. 成分構成

高クロム鋳鉄は、基本的に炭素(C)、クロム(Cr)、シリコン(Si)、マンガン(Mn)などの合金元素を含んでおり、クロムの含有量は12%から30%の範囲が一般的です。特に高クロム含有量が増すことで、耐摩耗性や耐食性が向上します。

クロム (Cr):
主な役割は硬度の向上と耐摩耗性の強化。クロムが酸化されて表面に保護性の酸化層を形成するため、耐食性も高まります。
炭素 (C):
硬度と強度に寄与しますが、高すぎると脆くなるため、適切な割合で調整されます。

2. 主な特徴

耐摩耗性

クロムの含有量が高いことで、硬度が非常に高くなり、研磨や摩耗に対して非常に強い耐性を持ちます。

耐食性

クロムは鋼や鋳鉄の腐食を防ぐ働きがあり、高クロム鋳鉄は化学薬品や酸などの腐食性環境でも優れた耐性を示します。

硬度

鋳造後の熱処理により、非常に高い硬度を得ることができます(一般的に600~700 HV)。

脆性

高い硬度を持つ反面、延性が低く、衝撃に弱い脆さがあるため、特定の用途では慎重に使われます。

3. 分類

高クロム鋳鉄は主に以下の2つに分類されます。

マルテンサイト型:
熱処理後にマルテンサイト組織を形成するタイプで、耐摩耗性に優れ、破壊靱性もある程度高い。
オーステナイト型:
高い耐食性を持つが、マルテンサイト型よりも硬度が低く、主に腐食性環境下での使用に適しています。

4. 用途

高クロム鋳鉄は、その優れた耐摩耗性と耐食性から、以下のような過酷な環境での使用が一般的です。

  • 鉱山業: 掘削機、破砕機、スクリュープレスなどの摩耗が激しい部品に使用。
  • セメント業界: 粉砕機やローラーの摩耗部品。
  • 発電所: 石炭粉砕機やポンプなどの耐摩耗部品。
  • 化学産業: 耐腐食性が必要な化学プラントの部品。

5. 利点と欠点

利点
  • 極めて高い耐摩耗性と耐食性。
  • 過酷な環境でも長寿命。
欠点
  • 脆性が高く、衝撃には弱い。
  • 機械加工が困難な場合が多く、鋳造後の追加加工が難しい。

高クロム鋳鉄は、特に耐摩耗性を要求される機械部品や装置において、性能を発揮しますが、使用環境や負荷を考慮した設計が重要です。

高クロム鋳鉄の切削加工
高クロム鋳鉄の切削加工

高クロム鋳鉄はその硬度の高さと脆性から、切削加工が非常に難しい材料です。

高クロム鋳鉄の切削加工時の問題点

POINT1

高硬度による工具摩耗

高クロム鋳鉄は非常に硬度が高く(600~700 HVが一般的)、その結果、切削工具が早期に摩耗します。
切削工具が摩耗しやすいと、工具寿命が短くなるだけでなく、加工精度も悪化します。

POINT2

硬質炭化物の存在

高クロム鋳鉄には、クロム炭化物(Cr₇C₃)が分散しており、これが非常に硬いため、切削工具に大きな負荷がかかります。
この炭化物の影響で、加工面が粗くなりやすく、加工精度の低下や切削抵抗の増大が発生します。
特に切削中に炭化物が切削工具と接触する際、工具に衝撃的な負荷がかかり、これが工具破損の原因となることもあります。

POINT3

脆性による切削性の悪さ

高クロム鋳鉄は非常に硬い反面、脆性が高いため、切削時に割れやすいという問題があります。
これにより、切削中にチッピング(欠け)や工具への強い衝撃が発生することがあります。
※材料が脆いため、切削力をかけすぎると、破壊的な欠損や割れが生じるリスクが高まります。
※切削中の急激な温度変化にも弱く、局所的な割れや亀裂が生じる場合があります。

POINT4

切削熱の発生と冷却の難しさ

高クロム鋳鉄の切削では、非常に大きな切削熱が発生します。
工具と加工物の両方が高温になり、工具の摩耗がさらに進むほか、加工物にも熱影響が出ることがあります。
※加工物が局部的に加熱され、熱膨張や歪みが発生しやすく、精度に影響を及ぼします。
※冷却剤を適切に使用することが重要ですが、冷却が不十分だと、工具の過熱や材料の硬化が進み、加工がさらに困難になります。

POINT5

切りくずの処理の難しさ

高クロム鋳鉄の切削では、非常に硬い切りくずが発生し、これが加工機械に悪影響を与えることがあります。
特に、切りくずが工具に絡まったり、機械の内部に蓄積したりすると、さらなる工具摩耗や機械トラブルの原因となります。
切りくずが加工中に絡まないようにするために、適切に切りくず処理を行う必要があります。

POINT6

加工条件の厳密な管理

高クロム鋳鉄は加工条件に非常に敏感で、切削速度、送り速度、切削深さなどの条件を適切に選定する必要があります。
これらが適切でない場合、工具破損や加工不良が発生しやすくなります。

高クロム鋳鉄の切削加工でお困りでしたら、ぜひ一度ご相談ください。
様々な経験とノウハウがございます。